橘さんが真剣な顔で言った。
「もう一回頑張ってみな。ちゃんと連絡取って、今までにあったこと全部話して。向こうは待ってると思うよ」
「え…それは」
「早坂さんに決まってんでしょーが!」
「む、無理です無理です!もう終わったことなんです!」
「なんでよ!諦める原因はなくなったじゃない?終わらせる理由がないわ」
ポケットの携帯を服の上からぎゅっと握った。
早坂さんからの連絡を避け続けて、朝も夜も会わないようにいつもと時間をずらして、彼の笑顔を思い出さないように毎日過ごして…。
私の心は空っぽになった。
空っぽになって身軽になりすぎた私は、きっと大事なものをたくさん失くしすぎた。
でも大事なものがあって、絶対手放せないものがあって。それを守るために私は…捨てる覚悟をしたんだ。
結果としてそれは守られた。
ならそれで良い。
覚悟の甲斐があってそうなったのなら。
考えた末の選択をして、それは間違っていなかったのだと思えた。
だけど。それでも。

