その日の夜10時。
早坂さんから電話が来た。
少しの間出るのをためらった。
だけどこの電話に出なかったら、この先私はものすごく後悔するだろう。
「もしもし…?」
「矢野さんこんばんは。今なにしてた?」
「え?えっと…ちょっと考え事?」
「なんで疑問形?へんなの」
そういって彼は笑った。
その瞬間、今までみた早坂さんの笑顔が頭の中に次々浮かんで、涙が出そうになった。
「ちょっと声聞きたくなったから電話してみたんだけど。…どうした?なんかあった?」
「え…どうもしないですよ?」
「そう?なんか元気ないように思えたから」
やだ、やめて。
なんでそんな些細なことに気付いてくれるの。
「は、早坂さん…」
「ん?なに?」
「あの、私…」
言いたいこと、聞きたいことはたくさんある。だけどそれを言葉にするのは難しかった。
「…なんでもないです」
「いやいや、今のは絶対なんかあるだろ。どうした、言ってみ?」
早坂さんは優しい。
携帯を握りしめながら涙が零れた。
「いや、やっぱり、今度会ったときに直接言います。ふふっ、早坂さん優しいですね」
声を聞きながら思うのは、やっぱりこの人が好きだということ。
「…別に俺、誰にでも優しい訳じゃねーよ?」

