サヨナラからはじめよう

「お願い、どこにも行かないで・・・」

司は真剣な顔で私を見つめると、ゆっくりと腰を下ろした。


「僕はどこにも行きませんよ」

そう言うと服の裾を掴んだままの私の手をそっと握った。


あったかい・・・
大好きな司のぬくもりだ。

たとえ夢でも久しぶりのその感触に、思わず自分からも手を握り返していた。

司はその上から包み込むようにもう一方の手を重ねると、
慈愛に満ちた私の大好きだった顔で微笑んだ。

「僕はどこにも行きません。だからゆっくり眠ってください」


その柔らかい声に気が付けば涙が零れていた。
泣くなんて・・・と思ったけれど、夢ならいいや。
夢くらい、心地よい感触に包まれたって罰はあたらない。

笑って泣きながら、再び夢の淵へと落ちていった____






「・・・・・・大好きだよ」


私の耳にはもう何も届くことはなかった。