サヨナラからはじめよう

それからはいつものように仕事に没頭した。
休憩中、ふとスマホが目に入る。

今朝、熟睡しているあいつをそのままにして帰って来てしまった。
一言連絡をしようと思ったところではたと気が付いた。
互いの連絡先を知らないのだということを。

居候しているときはその先の事なんて考えてもいなかった。
だから当然番号を教えることもしなかったし、私だって知らない。
私たちには連絡を取る手段がないことに今初めて気が付いたのだ。
よもや会社に電話するわけにもいかないし、・・・まぁ家はわかってるんだから、
仕事が終わってからまた考えればいいだろう。
私はそんなことをぼんやり考えていた。




「涼子さん、遅くなってすみませんでした」

7時頃、外回りから帰って来た中村君が息を切らしながら事務所内に入ってきた。今日は早上がりの日で珍しく他には誰も残っていない。

「お疲れ様!私も仕事があったから全然気にしないで」

ニコッと頷きながら笑うと、彼はそのまま私の隣の席に腰掛けた。

「それで、話って何ですか?」

うぅっ!
もうですか?いきなりきますか?
・・・・って、先延ばししたって仕方のないことだ。
私は覚悟を決めて大きく息を吸い込んだ。