サヨナラからはじめよう

「・・・家に帰ってどこかあの人に見覚えがあるような気がしたんです。それで思い出したんです。最近俺が気になってる建築デザイナーが南條司だったってことを」

ドクンドクン・・・
中村君は司のことに気付いていたんだ・・
彼が知っているほど有名なんだってことをあらためて認識させられる。

「慌てて以前買った本を取り出して読んでみたら、俺焦ったんです。あの人と涼子さんの間には何か誤解があるんじゃないかって。俺にはそれが何かわかりませんけど、少なくともあの人が涼子さんを一途に思ってるってことだけはわかった。だからそのことを涼子さんが知ったらあの人のところに戻ってしまうんじゃないかって・・・怖かった」

「中村君・・・」

「涼子さんは彼のことに全く気付いてなかったようでしたし、だから俺はあなたにそれを教えなかった。・・・そしてあの日。最後にあの人に会った時に俺言ったんです。・・・・あんたみたいな人を騙して取り入ろうとするような人間に涼子さんの傍にいる資格があるのかって。・・・・彼にとっては相当痛いところを突かれたみたいで、何も反論しませんでした」

そこまで話すと中村君はどこか苦しそうに顔を歪めた。