それから一時間ぐらいたったが誰もこなかった。

なんだよ、くるみのやつ、誰もこないじゃんか。

そう思ったとき、

ガラガラ

ドアが開いた。

入ってきたのは君島花だった。

長い綺麗な髪、白い肌、小柄な彼女は男子の中で一番人気だった。

しかも、遊んでる様子もなく、純粋な彼女は女子からも人気だとくるみから聞いた。

「こんな時でもサッカーボール使ってるんだ」

クスクス笑いながら入ってきた。

「あぁ、まあな。勝ちたいし。」

「いいね、スポーツやれて。」

言ってる意味がわからなかった。スポーツなんてやろうと思えば誰でも出来るから。

「やればいいじゃん?」

「うん、そうだね」

少しうつむいた彼女は苦しそうにに見えた。

「君島……」

考えてみれば初めて彼女の名前を読んだ。

彼女はいつも女子に囲まれていたからはなすきっかけがなかった。

「……」

「……」

何故か静かになった。

どちらも喋らなかった。

その重い雰囲気を壊すかのように俺はリフティングを再開した。

ボン、ボン、ボン、ボン

その音だけが聞こえていた。

「ねぇ……健太君。」

「なに?」

話が再開して安心した。気まずかったから。

「お願いがあるの」

「俺に出来ることなら。」

「うちを国立競技場に連れてって。」

「えっ?別にいいけど。」

「そうじゃなくて、サッカーで。

前ね、聞いたことがあるの。

サッカーの甲子園、国立競技場でしょ?」

「ああ。」

国立競技場は全国にまず行かないといけなかった。俺らは県予選敗退。

「約束して。私を国立競技場に連れてって。」

「なんで、俺?」

「お願い。」

彼女が下を向いていた。

俺は断れなかった。

「わかった。俺が連れてくよ、君島。」

「ありがとう。」

そう言って顔を上げた彼女は泣いていた。

「な、なんで泣いてんだよ?」

「ごめん。大丈夫。」

そう言って彼女は出て行ってしまった。

俺が彼女の泣き顔の意味を知るのはもう少し後だった。