夏真っ盛りなこの季節。お祭り騒ぎで小さな街はあっという間に人々の熱気で埋もれていく。あの時もこんな風に街が賑わっていた。浴衣や甚兵衛を着た人々がたくさん道を歩いていて。露店を回って歩いて。父と母と姉と私。
もう二度と会えないとわかっていても人ごみの中に姿を探してしまう。どこにいるの??お父さん、お母さん、お姉ちゃん。私はここにいるよ────


叫んでも届かない。夏の夕陽。もうすぐ夜が来る。

空を睨むようにして彼女は部屋を出ていく。


冷たい瞳をした彼女の行く先は─────。




「ねえねえ、早瀬さん」


大学内を歩いていて声をかけられることは彼女、
早瀬ルカにしてみればかなり珍しい事であった。
だが、ルカに声をかけてきたその人物はルカにとって
全く記憶にない人間だった。授業でも姿を見たことが無い。

「何か?」

少し警戒気味に返すと、ルカは一歩距離を開けるように
立つ。親しくない人間とあまり近くにいたくない。
それは昔からのことだった。

「早瀬さんも暇だったら花火大会行かない?
近所でやるからすぐ来れるしきっと楽しいから」


「そう。」

短く返すとルカは背を向けて歩き出す。何をいうかと思えばそんな事。花火大会などルカにとってはあの日の家族と過ごした最後の記憶を呼び起こす以外の辛いものでしかない。できれば二度と思い出したくないもの。

「早瀬さん!私、咲田莉生。医学科1年の」


ルカの後ろで莉生がそう伝えているがルカは無視して
そのまま歩き出す。馴れ合いなど不要。ひとり、
あいつさえいればルカには問題ないのだ。


「どいつもこいつも五月蝿くて。」


カバンから取り出した携帯を見るとメールが1通。
画面を開き内容を確認すると再びカバンへ携帯を仕舞う。
花火大会、ルカの脳裏に焼き付く今も消えない過去。


(どうして私だけ今も生きているんだろう。)


ルカ自身の問いかけに答える者はいない。