「せんせ」


「せーんせっ」




自分が呼ばれていると気づいてハッと顔を上げると、見知った顔が並んでいた。


「関根、に加藤も」



学生服を着た二人組が俺の目の前に立っていた。

なぜ俺の大学に、と思ったがすぐに理由がわかった。


今日は大学の文化祭の日だ。



「せんせ、ぜーんぜん気づかないんだもん。もしかして、寝てた?」


長い黒髪を耳にかけながら、少女は首をかしげる。

白いセーラー服からのびる手足は白い。



「こんなんで店番できてるのかよー先生ってば」


呆れるようにくしゃりと笑う彼はどこかいつもと違う。




大学の文化祭が盛り上がるのは大抵大きなサークルや部活の出店や出し物だ。
俺の研究室・・・それも、里村研究室のような地味な研究室の展示などを見に来るのは同業者くらいだ。
または、まだ残暑の厳しい9月の気温にうんざりした人々の凉み場所になるかくらいだった。


今日は俺がその持ち回りの当番の日だった。


卒研の資料作り等で昨日も遅く、うつらうつらとしていた時の来訪者だった。




「なんだ、お前らデートか」




そう言うと、加藤の方が明らかに動揺し、関根は少しムッとした。

加藤は少し緊張していたらしい。


「ちょ、せんせーやめてよね。加藤なんかと」