実を言うと、沙雪が研究室に訪れたのはこの話をするためかと思ったものだった。

それくらい、S大ではこの話題一色だ。


「いやだわ、なんか怖い」


沙雪がそう言うのも無理はない。


8月の、吉野美穂子の事件は記憶に新しく、あれから2ヶ月近く経ってはいるものの、未だに犯人は見つかっていなかった。



その後の報道や警察の発表をまとめると、死因は刃物による傷からの出血多量によるもの。
犯人は複数人。
計画的な犯行により、証拠がほとんど見られないこと。
クリーンベンチに無理やり入れるという残忍な手口。
そして、茶封筒に”Kに捧ぐ”と”4”、白紙の紙一枚だった。



連日朝や夕方のニュースでは、大学名と校舎の様子、そして高校時代の吉野美穂子の卒業アルバムの写真が報道された。

テレビの中の吉野美穂子は、俺たちが知るよりもあどけなく、真面目で優秀な学生の印象を世間に与えた。


記者やアナウンサーは口々に嘆く。
「なぜこんなことに」