From橘真琴


慣れた路地を通り、はるの家に着いた。玄関の呼び鈴を押してもはるが出てこないのはいつものことだ、僕は裏口からそっと入り浴槽のドアに手を掛ける。ドア開けた先はほとんど毎日見ている、はるの家の風呂場。でも、今日は一つだけいつもと違う....普段なら僕がドアを開けた後、すぐに浴槽の水から上がってくるはずのはるがまだ水から上がっていない、出る気配も全くない....そもそも浴槽に入っていないのかなと思うほど静かだ。これはおかしい、そう思った僕は浴槽の中を覗いて見た。するとはるは、目をつぶったまま浴槽の壁に寄り添うような体制で全身水に浸かっていた。普段、海風でなびく髪の毛は、水の中で一本一本が生きているかのようにふわふわと浮かび漂っていた。その姿を見て、現代に眠り姫がいたならばこんな感じなのかなぁと思い、しばらく水の中で寝ているかのようなはるに見とれていた。しかし、僕はふと我に返る...もし、本当に水の中で寝ているのだとしたら窒息死してしまうんじゃn....いや....もしかしてもう気を失ってるとか....十分にありえる。
「は、はるっ!!!起きろっ、はるっ!!」
そう叫び続けながら、僕は思った。
もしかして....はるはお父さんのように溺れて死んでしまうのではないかと。そう小さい頃、漁師の父はよく漁に出て僕に魚の取り方を教えてくれた。この網を使って、この場所に罠をしかけると上手くとれるんだよと得意げに話して笑っていた姿が未だに目に焼き付いている.........しかしある日、父は、急な天候悪化と嵐の影響で船ごと沈んで亡くなった。小さい頃に葬式に並ぶ黒服の人を見て本当に父が死んだんだと感じたとき、僕はすぐ隣にいたはるの横で泣いた。その日からしばらく僕は悲しさで押しつぶされそうな不安定な時期が続いた。しかしそんなときもはるは僕の隣にいてくれた.....
「大丈夫だ。俺がそばにずっといる。」
はるは僕にそう言ってくれた。その言葉は誰の、どんな同情の言葉より胸に底に響き僕を元気づけた。僕は一人じゃないとそう思うことができた。
僕にとってはるは軽々しく言葉では表せないくらい大切な人だ。だからはるが、父のように死ぬなんていやだ......嫌だ.....絶対に死なせたりさせない。そう、思いながら何回も僕は名前を呼び続けた....。