他は誰も知らない。

「そうだったんだ。良かった。」

そう言うとまた、優しく微笑んだ。
その笑みを見て、私は
胸が高鳴るのを感じた。
けど、
その気持ちを私は押し殺した。

「私、授業出るから。」

そう言って立ち去ろうとした。
すると、
急に腕が引っ張られて後ろへよろめいた。

(あ、転ぶ。)

咄嗟に目をつぶった。
すると、

フワッ

そこにあったのは固い地面じゃなく
温かい人間の体だった。

ギュウッ

「俺、叶のこと好きなんだ。
ずっと、ずっと前から叶のこと…。
だから、そんなあからさまに、
避けないでくれよ。」

「…ごめん。」

そう言って、私は彼の腕の中から抜け出し、屋上のドアを開けた。