だから、ビックリしてしまった。

こんなに喋って、
こんなに優しく笑うなんて思わなくて。

私は、
彼を見ることができなかった。

その優しく笑う顔を。


恋に落ちたとか、
そうじゃない。

私は、優しくされるのに戸惑ってしまうから。

大切な人をなくすのが嫌だから。

だから、見なかった。

優しく微笑む彼の顔を。


「どうして、いつも、叶さんは此処にいるの?」


「叶。叶でいいよ。」


「そっか。じゃあ、俺は雷夢って呼んでね。じゃあ、叶。叶はどうして屋上にいるの?
そして、どうして泣いてるの?」


私は、
小さく微笑んだ。


「屋上にいるのは、
ただ無になれるから。」


「泣いてるのは?」


「前も言ったでしょ?
泣きたいからだよ。」