ー12年前ー

あの日はお父さんと公園に行っていた。

私は当時5歳だった。

『お母さーん、ただいまぁー』

いつもは返してくれる「おかえり」もこの日は返してくれなかった。

しかし、この頃の私はそんなこと気にすることもなかった。

『ただいま、千恵子。』

お父さんが扉の向こう側にいるお母さんに言う。

『あれ?お母さん、もう寝たのかな??』

『ねぇ、お父さん靴下真っ黒ーーーーー』

そういって振り返ったお父さんは少し不安そうな顔をしていた。

『靴下脱いできなさい、手も洗ってくるんだよ。』

『はぁーい』

そう言われて私は洗面台へ向かった。