2014-06-01 pm.11

「…こんばんは?」

小さな声と共にドアが開いた。

カランコロン、と鳴った音にビクリとした訪問者。

咲滝はそんなお客様に

「お、いらっしゃい!

まー座って下さいよっ」

と気さくな笑顔を見せる。

そんな店員なのだが、それでも今宵の客は緊張するらしい。

「は、はいぃっ!

こ、琴葉っていいますっ!」

どもりつつ自分の名前を告げると、びしっ、と背筋を伸ばして椅子に座った


咲滝はそれを見てニッと笑いかけた。

「全然緊張しなくて大丈夫っすよ」

それの効果があってかは知らないが、少しずつ琴葉の緊張も解けてきたようだ。

咲滝に渡されたメニューを眺める余裕が出た。

「何か飲みます?」

と咲滝が聞くと

「えーと、えーと」

せわしなく目を動かしてからコテン、と首をかしげた。

「迷っちゃいます…

おまかせでいいですか?」

喋ることが目的の店では、客は買うものは何でも良いので"おすすめ"という選択をされることも少なくない。

当然、この店もそんな部類に入る訳で、その為相手に合わせたお勧め位はすぐに浮かんでくるようになっている。

「そーだな…」

少し考える素振りを見せた咲滝。

相手を1目見て

「アンタみたいに可愛いお客さんには

ホットココアなんかどうだ?」

と提案し、相手の顔色をうかがうべく琴葉の顔を覗き込んだ。

琴葉は大きな目をパチパチと音がするような勢いで動かす。

「っは?

可愛くなんてないですっ」

と頭を取れそうな位に振った。