微熱で溶ける恋心



相当忙しかったのだろう。


逸平は約束の時間を僅かに過ぎて、それでも焦った様子もなく顔を見せた。




「悪い、遅くなった」


「いいえ。どうぞ」


ラップのしてある牛すき丼とお味噌汁、漬け物。


あとは余った副菜を適当に載っけた。


どうせ捨てるだけだし。





彼は私からそれを受け取ると、


「・・・帰るの?」


探りを入れてくる。


逸平の希望は分かっている。


だけど私も定時はとっくに過ぎている訳で、管理職だから残業代が付く訳でもない。


当然ながら可愛く、「あなたが食べ終わるまで待ってる」なんて語尾にハートマーク付きで愛を安売りする年齢は過ぎているし、そんな性格でもないので、



「どちらでも」


素っ気なく応えると、眉を下げ、


「食べ終わるまで隣にいて?」


・・・彼は、見かけによらず寂しがり屋なのだ。