「……でも世の中にはさ、言葉が通じるもの同士が話しても、わかりあえないことなんてたくさんあるんだよな」
「!……それって」
「あ、うん。そう」
先生はしまったというような苦笑いを浮かべる。
その表情で先生が今何を考えているのかがわかってしまった。
きっと先生は今日のあの男性との件を考えているんだ。
言葉が通じる人間同士なのに、自分の気持ちがちゃんと伝えられなかったことを悔しいって思っているのかもしれない。
はぁ、と先生が息をついたのが耳に入ってきた。
「……坂本さん。少しだけ、話聞いてもらってもいい?」
「え?……もちろんいいですけど……私でいいんですか?」
「うん。今は患者としてではなくて……そうだな、ネコ好き仲間として聞いてもらえたら嬉しい」
「……はい」
真剣になった先生の表情に、もしかしたら今日起こったことを話してくれるのかもしれない、と私の頭の中に予想が浮かんだ。
「ありがとう。あ、でも今から話すことは誰にも内緒な?」
「……もちろんです。誰にも話しません。絶対に」
話を聞くことで先生の気持ちが楽になるのなら、私はいくらだって話を聞きたい。
信用してくれているからこそ話してくれるんだと考えれば、すごく嬉しい気持ちになってしまったことは、一生のヒミツだ。
私は先生が抱えた思いを受け止める役割ができることだけで十分なのだから。

