「周りが見えなくなって、つい。あの後、堤先生には怒られるし、かなりへこんだ」
「そう、なんですね。でも……私は変なところを見たなんて思ってませんから」
「そう言ってもらえると助かる。いや、でも、うん。患者さんがほとんどいなかったとは言え、獣医として失格の行動を見られてかっこ悪いなーって思ってたんだ。帰ったら不貞寝してやろう!って帰ってたら急に坂本さんが現れたから、実はすっごい驚いた」
「あっ、ごめんなさい……!」
やっぱり声を掛けたことが迷惑だったんだと知って、私は虎谷先生に向かってぺこっと頭を下げる。
どうしよう……これをきっかけに先生がコタロウと遊んでくれなくなったら……。
「あ、違う違う。逆だよ」
「?」
「救われた。……坂本さんに」
「えっ?」
「うん」
まさか「救われた」なんていう言葉が出てくるとは思わなくて虎谷先生のことを見ていると、穏やかに笑った虎谷先生がゆっくりと口を開いた。
「……なんだろうな。坂本さんって……」
「……?」
「……いや。うん。……あ、さっきコタロウのご飯買いに来てたんだよな?コタロウの様子はどう?って先週会ったばかりだけど」
「変わりなく元気ですけど……」
「そっか。なら良かった」
うーん、と言いながら先生は背筋を伸ばす。
先生が何を言おうとしたのか気になったけど、太陽の光を浴びてまぶしそうに目を細めているその表情はさっきよりは少しだけ晴れたように見えて、ひなたぼっこが少しでも気晴らしになってくれたのかな、と思った。
だから、あえて聞きなおすことはしなかった。
……でもきっと、先生を心から元気にする一番の方法は、ひとつだ。

