「もういい!他を当たるから!こんなところには頼まん!」
「田辺(たなべ)さん、お待ちください。僕が言っているのはそういうことではありません。もっといい方法を考え直してもらえませんか?」
目を向けた先にいたのは、診察室から出てきた完全に頭に血が上ってしまっている様子の40代から50代くらいの大柄の男性とその腕に抱えられたミニチュアダックスのワンちゃん、そして、いつものように冷静な表情、冷静な口調で男性に話し掛ける虎谷先生と、その後ろで不安そうな表情をしている西岡さんだった。
いつもの穏やかさとは全く違う雰囲気に、私はそのやり取りを呆然と見てしまう。
「もういいと言っているだろう!?俺にはもうマメは必要ないんだから、どうしようと俺の勝手だ!」
「その“勝手”に振り回されるマメちゃんの気持ちも考えてあげてくださいと言っているんです」
「!……もう、決めたことだ。ここがダメなら他を探す。じゃあ、世話になったな」
ふんっ、と男性が虎谷先生から顔を背けてドカドカと歩き出すと、虎谷先生が「待ってください」とその腕を掴み、男性のことを鋭い目付きで睨みつけた。
……その表情は、病院で見せるものではなかった。
男性も虎谷先生のことを見て、驚いた表情を見せた。
「……お言葉ですが、他の病院も引き受けてくれるとは思えませんね。ご自分の都合なんですから、きちんと引き取り手を探してあげるのが、飼い主の責任でしょう?それに、どこに行っても、同じことを言われると思いますよ」
「!そんなのわからな」
「わかります。この子の命を奪う権利なんて、あなたにはないんですよ。……こんなに小さくても、大切な命なんです!」
男性の言葉をさえぎるようにして、噛み締めるように発された虎谷先生の声が待合室に響く。
その次の瞬間には、その場がしんと静まり返る。
こんなに声を荒げる虎谷先生の姿を見るのも初めてだった。
それに……
……命を奪う?
一体、何の話をしているんだろう?

