「……虎谷先生」
「何?」
「もしかして、それ、いつも持ち歩いてるんですか?」
『それ』とはふわふわの毛玉ボール。
私の手にちょうど収まるくらいのそれにはゴムが付いていて、ボールをぶら下げて上下させるとヨーヨーのように揺れる。
女の子がこういうストラップを携帯につけてるのはよく見るけど……男の人が持っているところは見たことない。
私の質問に対して、“真剣に”コタロウと遊びながら虎谷先生は至極真面目に答える。
「常備が基本。いつこうやってチャンスが訪れるかわからないだろ?」
「……はぁ」
……『ネコとの出逢い』をこんな風に準備万端にしてまでワクワクしている男の人に会ったのも初めてだ。
もしかしたら、散歩をしていたのもどこかでネコちゃんに会えるかもしれないということを期待してのことなのかもしれない。
「来いっ、コタロウ!」
虎谷先生の呼び掛けに答えるように、コタロウがにゃっ!と鳴き、ネコパンチ。
いつもあんなにクールな獣医さんなのに……と思うと、自然と笑いが出てきてしまう。
「ふ、ふふっ」
「え、何、急に」
「い、いえっ。……ふふっ」
私は笑いをこらえつつ先生とコタロウが遊ぶ姿を横目に、洗面台のところに置いておいた買出ししたものをキッチンに仕舞いに行った。

