パソコンの打ち込みをしながらコタロウのことを頭に浮かべてウキウキとし始めた時、背後から声が掛かった。
「坂本さん」
「伊野(いの)局長。お疲れ様です」
私の挨拶に穏やかな笑顔で「お疲れ」と返してくれるのは、私が働くユズノ薬局のトップの伊野局長だ。
ここで唯一の男性の薬剤師で、若くして局長の座に居座る人物。
男性だけどとても細やかなところに気が付く人で、お客さまからもすごく人気がある。
……特に女性、そして50代以上のおばさまからの。
伊野局長はもうすぐ40歳になるにも関わらず、まるでアイドル扱いをされているのだ。
「忙しいところ悪いんだけど、この資料の打ち込みもお願いしていいかな。今バラバラだから薬の整頓リストを作ろうと思ってるんだ。とりあえず一部だけだから、そんなに時間はかからないとは思うから」
「はい。わかりました」
「来週の月曜か火曜までに打ち込んで、終わったら俺に連絡して」
「了解です」
私は伊野局長から資料を受け取り、パラパラとめくって中身を確認する。
このくらいなら、伊野局長の言うように頑張ればそんなにかからずに終わるだろう。
通常業務の方も慌ただしい中で都度片付けていっていたから、ほとんど作業は残っていないし。
さくっと作業を進めて帰ろう。
よし、と気合いを入れた時。