虎谷先生の雰囲気が明らかに変わってしまったことに対して私がびくびくしていると、虎谷先生がゆっくりと立ち上がり、はぁと息をついて私の方に顔を向けた。
その視線は真っ直ぐと私を捕らえる。
虎谷先生がそばの棚にあった除菌スプレーと除菌シートを使って手を拭きながら近付いてくるのを呆然と目に映したまま、私は金縛りにあったかのようにその場から一歩も動くことができなかった。
ぽいっとゴミ箱に除菌シートを捨てる。
「……そっか。見られちゃったのか」
気付けば虎谷先生と私との距離は触れそうなくらいになっていて、つい俯いて目をつぶってしまうのと同時に、先生の手にぐいっと手を引かれていた。
「ひゃ……っ!?」
部屋の中に入れられてしまった私は、コタロウのキャリーバッグの重さもあってバランスを崩してしまって虎谷先生の身体にトンッとぶつかる。
私が慌てて離れようとすると、後ろでパタンと扉が閉まる音がした。
ハッと虎谷先生のことを見上げると、先生は私のことをじっと冷たい瞳で見下ろしていた。
「っ!」
動物がいるとは言え、その部屋には私と虎谷先生の二人しかいない。
その事実に気付いた私の頭の中に、危険信号が点滅した。
男の人に慣れてないわけではないけど、そういう存在がいたのは何年も前のことだし、今の職場は女の人ばかりでこんなに近くに男の人がいること自体が久しぶりだ。
緊張してしまうのは自然なことだと思う。
しかも、きっと“見てはいけないもの”を私は見てしまったのだ。
私のそんな心には気付いていないであろう虎谷先生は私のことをじっと見据えて、突然気が抜けたように私から視線を外し、はぁ、と盛大にため息をついた。

