「……樹さん、別れ」
「樹ーっ!」
「!?わっ!」
突然飛び込んできた声と、その姿。
風を感じたと思ったら、目の前には樹さんの腕に絡み付いている西岡さんの姿があった。
「菜々、じゃなくて、西岡さん、何して」
「買い物に出てきたら、ちょうど樹が見えたから飛んできちゃったー!こんなところで何してんの?って、あら?坂本さんいたの?ごめんなさいね、見えなかったの」
「……いえ」
突然の西岡さんの乱入に驚いたけど、意外と私は冷静だった。
今、樹さん、西岡さんのことを“菜々”って呼んだ。
病院の掲示で見たことがあるけど、西岡さんの名前は間違いなく“菜々”だ。
そうだよね、結婚するんだもん。
彼女のことを名前で呼ぶのは当たり前だ。
それに、いつもよりも砕けた口調のせいか、何だか西岡さんがいつもよりも子どもっぽく……ううん、かわいく見える。
それはやっぱり樹さんの前だから?
そう思いながらぼんやりと二人のことを眺めていると、樹さんは西岡さんの手首を握って、ぐいっと引っ張っていた。
「手、離して」
「嫌!離さないもん!」
「離せって。いい加減にしないと、怒るよ」
「やだ!」
西岡さんは飄々とした態度で、樹さんの言葉を跳ね除けていく。
樹さんはそんな西岡さんに呆れたように大きくため息をついて口を開いた。

