あの優しさも、笑顔も、言葉も、キスも。

全部が嘘だったなんて、まだ信じたくない。

そう思わせるのは紛れもなく樹さんで。

それだけ私は樹さんに溺れてしまっていたということ。

あの場面を見ても、樹さんのことを信じたい、という気持ちが残っているのだ。

……私はまだ、こんなにも樹さんのことが好きなんだ。


どのくらい泣いていたのだろうか?

にゃおというコタロウの泣き声が耳に入ってきて、私はそっと顔から手を離し、首を動かしてコタロウの方を見る。

コタロウはきちんと前足を揃えてちょこんと座って、ねこじゃらしをくわえて私の顔を見下ろしていた。

いつの間にかねこじゃらしを持ってきていたようだ。

しっぽがゆらゆらと揺れていて、遊んでほしいとねだっているのだろう。

コタロウにそういう気はないかもしれないけど、私はコタロウが私を元気付けてくれようとしてくれているんだと思った。


「ねぇ、コタロウ。コタロウは何があってもずっと私のそばにいてくれる?」


コタロウは私のこと、裏切らないよね?

どこにも行ったりしないよね?

コタロウは何も言わず、くりくりとした宝石のような丸い目で私をじっと見ている。

何も言ってはくれないけど、私を必要としてくれているんだよね?

樹さんがそばからいなくなっても、それは樹さんと出逢う前に戻るだけ。

コタロウとふたりで楽しく過ごしていた時に戻るだけのことだ。

そう割り切れば気持ちが軽くなる日がきっと来るはずだ。

……今すぐは無理だとしても。