病院の中庭へ出たわたしたち。


ちょうどベンチが空いていたので座ることにした。



「話す前に、少し聞きたいんだけど
記憶を失う前のこと、覚えてない?」


「…いえ。家族のことだけなんとなく覚えてました。いや、覚えてたっていうより、心でわかった。って言った方が正しいかも。」


「そう。」



家族って、揺るぎない絆があるから
目を見ただけでも感じたりするものよね。



「じゃあまずさっきの答えだけど、
あたしは阿部くんの彼女じゃないわ。」


鈴香の表情を伺うと、
まったく驚いた様子はなかった。


きっと感付いたんだろうな。



「これから、あなたが忘れてるであろう真実を全て話すわ。それを聞いて驚いたり悲しくなったりすると思うけど、最後まで聞いて。」


「…わかった」


「阿部くんや佐久間くん、そして鈴香。
あなたたちは高校1年生のときから同じクラスだったの。
当時のあなたは少し捻くれてて、あまり笑う子じゃなかった。でも、それを阿部くんたちが引き出したの。」


ゆっくりと、話を始めた。

優馬から聞いた話も織り交ぜて、
あたしの知っている鈴香を全て話した。