「あぁ、うん、びっくりした顔してたな。でもさ、あの頃は携帯なんてなかったからさぁ。」

くすくすと笑う部長と、真面目に受け答えをしている坂巻。

「あぁ、もしかして、その時もジャケットを膝にかけて縫ってもらったんですか?」

「いや、その時は隠しもしなかったな。」

正座して大人しく待っていたよ、と坂巻に微笑みかけている。

「あぁ、でも本当はさ、アポなしで1件行きたかったんだけど時間が無くなっちゃってねぇ。」

ふぅ、とため息をついている部長を横目に縫い終わった糸を切る高峰。

「ズボンが切れて、時間切れ、なんてシャレになんないよねぇ。」

それまで会ったこともなかった、旦那の部下らしい男のズボンをかがった奥さんはえらい。

あはははは、と笑い合う2人がなんだか親子に見えてきた高峰であった。