一方、当事者の百合は今の話を聞いていなかったかのように静かに座していた。
百合は解っていたのだ。
鯨達の言葉は絶対で、抗(あらが)うだけ無駄だということを。
鯨達はその豊かな顎髭(あごひげ)を撫でながら続けた。
「またいつ津波に襲われるやも分からぬ。百合ももう子を産める年じゃ。早う世継ぎを作らねば。」
皆、心の何処かでは解っていた。
ーーこの、深海家は代々珍しい女系の一族である。
婿をとっては血を繋げてきた。
姫巫女の力を持つ女児は、身体の何処かに鱗(うろこ)のようなアザを持って生まれる。
何人も姉妹がいる場合、最も力の強いものが姫巫女を継ぐ習わしとなっていた。
