深海家奇譚




頬に当たる風が心地よい。

甚兵衛は息一つ上げずに丘を目指す。



ーー物心ついた頃から、傍らには甚兵衛がいた。

私よりも少し年上の忍び。


無口で、無愛想。
しかし命じられた事は必ず完遂する。



...最初の頃は、そんな甚兵衛が少し恐かったのだけれど。


今では頼りになる兄のように慕っている。



決して表には出さないけれど。