部屋の前に着くなり、正座をして、一呼吸。
名を名乗り、話がしたいと襖越しに言えば、暫くして宮人長の渋い声が返ってくる。
「――入れ。」
声が耳に入るなり、咄嗟に逃げ出したい衝動に駆られたが、臆病な自分を最大限に奮い立たせ…襖を開いた。
「失礼致します。」
途端、独特な香の匂いが押し寄せ、机を前にこちらを見る宮人長と目が合う。
左右に分けられた白髪交じりの灰色の髪。程よく痩せこけた頬や表情。
年齢相応の独特な貫録を惜しみなく披露し、彼は三白眼の鋭い眼光を容赦なくおれに突き刺した。
まるで蛇に睨まれた蛙の気分だ。
紅ノ間で会う時とはまた違う威圧感が押し寄せる中、おれは何とかつばを飲み込み…口を開いた。
「あの、」
「なんだ。」
やたらと早い返事。
だが、こんなことで折れるわけにはいかない。
決心を決め、息を吸う。
「今日の宵祭のことでお話が…」

