『さようなら。』



と、彼女は静かに部屋を出て行った。

とても綺麗な笑顔だった。


…でも、もう二度と彼女には会えない。


寂しかった。悲しくもあった。

けれど何年も何十回もそれを重ねていく内に私の心は石のように固まり、氷のように冷え、今やすっかりそれが当たり前の行事としか思えなくなってしまった。


そんな彼女が居なくなった部屋で、私の紅色の長髪を櫛でときながら、宮女は言う。



「直、次の供物が参ります。しばしご辛抱くださいましね。―――シキガミ様。」



シキガミ。


そう、私はシキガミ。


この国の唯一神であり、生き神。



だから神には…供物が与えられる。