権力の塊って……いや、まちがってはないけどさ。


「俺はそれが嫌だから貴文さんのところに行くっていってるんだ。名前だって雛結じゃなくて本名の立花鷹を使うつもりだし」

「えーなんで、もったいなぁい」


 心底残念げに行ってくる遥をジトリと見やりながら、だってと続ける。


「だって……嫌なんだ、神宮の女形ってだけで変に期待されたり気を使われるの。だからもしお師匠のお許しがもらえたら俺、神宮雛結の名前は出したくない」


 実兄のミナト兄さんは作詞家として、遥はタレントとして自分の力で頑張ってる。なのに俺はお師匠様の名前で今の天才女形なんていう名声を手に入れた。俺の事なのに俺じゃない。

 誰も立花鷹としての俺を見てない。化粧して綺麗な着物で着飾った神宮の雛結としての俺しか見てない。

 それが嫌だ。もう嫌なんだ。


「まぁ、鷹がそう決めてるなら僕はもう何にも言わないけどぉ……」


 言いつつまだ「勿体無い」っていう顔をした遥の頭をポンポンと撫でて「話はそれだけ」と締めくくる。


「ごめん、せっかくの休みなのに押し掛けて」

「何言ってんの、僕ら親友でしょ。鷹の話しなら眠りながらでも聞くし僕」


 言って見慣れた無邪気な笑顔を見せる幼馴染みに、俺もコイツにしか見せない笑顔でニッと笑いかえした━━。