私と彼と――恋愛小説。

何がなんだか理解出来ない。テラス席の一番端からの彼の声はビルのフロアに響き渡り、通りがかりの幾人かはその声に振り向いた程だった。


私はと云えば、ポカンと彼を見つめて今の状況の理解に努めるだけだ。


少なくともあの男は私の名前を呼んだ。彼はいつの間にか私の目の前に座る。


「ねえ、新しい珈琲が飲みたいな僕としてはさ」


私より若いだろう…多分二十代後半。昔なら騙されそうな顔だ。


「あのですね?なんで私があなたと珈琲飲まなきゃいけないんですか?私は此処で待ち合わせなんです」


男はとぼけた表情でわざとらしく頷いた。


「だよな。確か待ち合わせは二時間前だよね」


男は自分を指差して愉しそうに笑う。


「あの…もしかしてなんですけど…あなた〈カヲル〉さんだなんて事はないですよね…」