私と彼と――恋愛小説。

「苦手なんだよね。首輪みたいでさ…」


抜き去ったネクタイを軽く持ち上げて笑い掛ける。変に意識しては駄目だ。


私は佐久間の担当者としてこの場所に居るのだ。小娘じゃあるまいし、仕草や笑顔に簡単に堕ちるなどあってはならない。


仕事が出来る事は認める。きっちりとすれば多少童顔でも見栄えが良い事も認める。外面は抜群に良い事も…


あの撮影の時のスタッフから受けていた佐久間に対する信頼感…内面も良い。


もやもやする感情を否定する要素が見つからない。


「えっと――加奈子ちゃん。大丈夫?もしかしてネクタイにトラウマでもある」


「えっ?」


「いや…ネクタイ見つめたままで固まってるから」


佐久間が本気で心配そうな顔をしている。まさか佐久間のアラを見つけて気を落ちつかせようとしていたなどと話せるわけがない。


「すいません。ちょっと考え事してただけです…ネクタイにトラウマはありません」


佐久間は、くくっと笑い窓の外へ顔を向けた。嫌味な男なら、何かしらちょっかいを出す処だろう。


紳士じゃないか…何だかやりづらい。