私と彼と――恋愛小説。

そう言われて杏奈の事やnoxの企画の事をすっかりと忘れていた事を思い出した。


「そうでした…さっきの雰囲気に圧倒されちゃって」


「ダメじゃん。この後は調整出来る?ついでに打ち合わせしちゃおうよ。流石にこの先は忙しくなりそうだ」


谷女史へ連絡を入れ、佐久間と外で打ち合わせすると告げた。他の事より〈カヲル〉優先で進めろとのお達しだった。


編集部へ戻り、バッグとコートを手に佐久間の待つビルの前へ急ぐ。


「あー悪いけど僕の部屋で良いかな?予定すっ飛ばしたから事務所は居辛そうだ」


少し考えて大丈夫だと答える。二度目だとは云え、一人暮らしの男の部屋へ入るのは緊張してしまう。


会議室で、心の何処かを鷲掴みにされた事が余計にそう思わせるのだろう。


タクシーに乗り込むと、右側に座る佐久間が心持ち緩んでいたネクタイをシュッと衣擦れの音を響かせて首元から抜き去った。


ふぅ…っと息を吐く音が響いて――キュンと胸の奥が共振してしまう。