私と彼と――恋愛小説。

誰もが静かに頷いて珈琲を受け取る。皆、場の雰囲気を壊したくなかった。


珈琲を配り終えて優子を部屋の外へ送り出す。


「加奈子さん何ですか――あの空気?怖かったぁ…」


優子は半べそをかきそうに引きつっている。


部屋に戻ると常務が最後のページを読み終えたところだった。静かに緊張感が走る。


「良い出来だな…」


その呟きで一気に部屋の空気が和んだ。相槌を打ったのは文芸部の部長と担当者だ。


「正直、サイトの作品を読んだ限りでは相当に加筆も必要だと思ってましたけど…何者ですか?彼女」


〈カヲル〉の事には深く触れないのが条件で、全員がそれは理解している。それでも漏れてしまった本音だったのだろう。


全員の視線だけが佐久間に向けられた。佐久間も苦笑して口を開く。


「随分前から彼女に依頼はしてありましたからね…まあ、それ以上は約束なので」


「その通りだ。その為に彼が来てくれてるんだからな。それにしても、随分厚みが出たな。増えた描写も読み応えに繋がってる」


常務の言葉に谷女史が反応した。


「あら、常務も読まれたんですか?携帯で?」


「おかげで眠いわ、目がチカチカするわで大変だよ。まさかこんなもんで小説読むとは思わんかったよ。やっぱり紙が良いな…」