私と彼と――恋愛小説。

佐久間も、先ほど私に向けた視線の事など無かった様に熱心に佐伯と向き合っていた。


本来は仕事の出来る男なのだ。佐伯の姿が憧れていた頃と重なる気がした。


室内の半分は原稿をもの凄い勢いで捲り、佐伯と佐久間のやり取りは淡々と続く。


営業は携帯で電卓を叩きながらその様子を邪魔しない様に見守っている。


「加奈子、人数分珈琲でも調達してきて。うちの部員に運ばせて良いからさ」


小声で谷女史が耳打ちした。もしかすると別の事に気をとられている私を見透かされたのかも知れない。


私は、出来るだけ空気を乱さない様に静かに部屋の外へ出る。


深呼吸をして落ち着きを取り戻す。部に戻り会社から一番近い店からテイクアウトの珈琲を抱えて常務室へと戻る。


ページを捲る静かな空間には、相変わらず不思議な熱気が漂う。先程迄この空間に居た私はともかく、一緒に珈琲を運んで来た部下の優子は固まってしまっている。


「みんなに配りましょう」


私が声を掛けるまで顔が引き攣っていたのが妙に可笑しかった。