満面の笑みだった。どうだ!という勝ち誇ったものでもなく、傍観者の私を嘲笑するものでもない。


何かに夢中になる子供が純粋に喜びを表現する風な笑み。


胸を突き抜ける感じ…不味い。キュンと心臓ごと鷲掴みにされた気分だ。


「加奈子、何してる!コピーしてきて」


谷女史の言葉で我に返り慌てて常務の席に駆け寄ってUSBを受け取った。


こんな時に何を考えているのだ!私。


何部かのコピーを手に部屋へ戻る。佐久間も時間調整に手間取っていたのだろうか、常務室の前で鉢合わせる。


「さてと、戦闘開始だよ。加奈子ちゃん」


ポンと私の背中を佐久間の手が押した。


「はい!」思わずそんな声が私の口を突き、佐久間がにこりと頷いた。


真田常務と文芸部の連中は、あっという間に私のコピーを奪い取り原稿を捲り始めた。


「佐久間さん、コミック担当の佐伯です」


声を掛けたのは佐伯だった。一瞬佐久間が私に視線を向けた。この男?そんな風に目が言っている気がした。


「取り急ぎ漫画家のリストと絵柄です。スケジュールもですが作品のイメージに合うのを選んで貰えますか?」


もっともな話だ。コミック化すれば主人公の絵一つで作品のイメージが変わりかねない。


佐伯もそんな事は心得ている。作風の異なる作家を幾つか揃えてあった。