私と彼と――恋愛小説。

何か事情があって待ち合わせの時刻に到着出来ない事だって考えられる。


テラス席に人が来る度に視線を送るけれど、誰も私に声を掛けて来る事はなかった。


もしも見られていると考えると、不貞腐れた態度をする事も憚られた。


背筋を伸ばし時間の許す限り待とうと決心した。


何度も人は入れ替わり虚しく時間は過ぎる。気が付くとテラスには私と時間きっかりに訪れた若い男の二人だけだ。


同じ様な業界の連中は雰囲気でわかる。着崩れた格好、それでもギリギリ他人を不愉快にさせない自由な感じ。


デザイナーやらプランナー、あるいはライターの類いだと感じる。


そんな事を考えながら彼を見ていたら、振り向いた彼と視線が合った。


突然だった…彼は私の方へ椅子ごと身体を向けて両手をバンザイする様に突き上げた。


「降参だよ、降参。意外にしつこいねぇ~加奈子ちゃん」