佐久間が来社している事は、とうに関係者には伝わっていた様子だった。


常務の席にある内線電話で谷女史が連絡を入れると、広く感じた常務室があっと云う間に人で溢れかえる。


会議の時と様子が違うのは――中心に居るのが佐久間だと云う事だった。


「同時進行ですね。出来ればサイトの小説が完結して盛り上がってるタイミングで出版したいですね。サイトの読者はタイミングを逃せば次の作品に目が行ってしまう」


初対面の面々を前にしても、佐久間の振る舞いは堂々としてブレる事はない。


「でも、佐久間さん。まさか携帯サイトの作品をそのまま印刷に回すわけには行きませんよ?」


営業と文芸部の責任者から、当然の声が上がる。


「ええ、それは当然ですよね。サイトの小説はもう出来上がっています。彼女には此方が指定したスケジュールに合わせて完結して貰います」


「そうか…それにしても、今からノベル用に改稿する時間は彼女にあるのか?」


佐久間はバッグから分厚い封筒と小さなUSBメモリを取り出した。


「彼女にお願いしてノベル用に書き直して貰った原稿です」


「見せてくれないか…」


一番に佐久間にそう告げたのは真田常務だった。