佐久間からのメールは深夜二時きっかりに届いていた。きっかりとしたビジネス文で…


朝一番で編集長のスケジュールを確認し時間を押さえて佐久間に返事を返す。


もちろん私も同じ様に丁寧な返答を返した。


「加奈子。真田常務の時間も押さえたからね、ついでに問題の佐伯にも会わせよう」


「あっ…はい。それじゃ佐伯さんにも連絡します。


朝一番から佐伯の声を聞かなければいけないと思うと溜息が出そうになる。


「珍しいな。お忙しい加奈子から連絡なんて」


嫌味な男だ…コミックの部門でも私と佐伯の関係を知る者もいる筈なのだ。それでもわざとらしく、私を“加奈子”と呼び捨てにする。


「佐伯さん、いい加減に名前で呼ぶの止めていただけないですかね」


わざと抑揚を抑えて低い声で言い放った。


「ああ、それもそうだな。それで?人気者の高邑くんが何の用事だ」


佐伯が目の前に居れば、迷わず蹴りでも入れそうな気分だった。


「カヲルの代理人、佐久間さんと二時過ぎに伺います!」


返事も聞かずに内線をガチャ切りする。遠巻きに私を見ていた部下が目を背けるのが見えた。


デスクの上で携帯が震えると表示は佐伯だ…もう番号を変えてしまいたい。


「あら?何かご用ですか…」


「悪かった、言い過ぎたよ。時間は了解した…それだけだ。じゃあな」


どうして直ぐに謝るぐらいならば、ああも挑発するのだろう…本当は小心者の癖に強気に出る。実際この男の何処が良かったのかさっぱりわからない。