困惑する私に、佐久間は少しの間を空けて静かに答えた。くっきりと通る声で…ふざける様子もない。



「冗談だ約束は守るさ。それがこの世界で生き残る最低条件だから…そうだな、問題は解決するべきだね。幾つか僕の都合で悪いけれど時間を連絡する。社内で調整とってくれるかな?」


軽いノリの佐久間と、きっちりとビジネスモードの言葉。簡潔にそれだけを一方的に告げて“じゃあ明日”そんな風に電話は切れた。


カヲルである佐久間に出会ってほんの数日で嵐の只中にいるみたいに振り回される。どうしてこうなってしまったのかさえ、思い返せないぐらいだ。


嫌になる…恋愛は兎も角、仕事の進め方には自信があった。例えどんな相手や状況であっても、姑息だと自分で感じる程に媚びようが思い通りにしてきたのだ。


わかっている…この男は私に扱える様なシロモノではないのだ。嫌になっているのは自分自身に対しての事なのだ。


それでも泣き言を零す暇などなかった。小説に関しては谷女史のサポートが期待できる…問題は、佐伯の関わるコミックだった。


進め方すらわからない私には“あの”佐伯に頼らなければいけない事が多すぎるのだ。あいつに頭を下げる事を思うと…それが仕事の上だと云え胸の奥がムカムカするのだ。


表面上は真田常務の睨みが効くだろうが、素直に協力してくれるだろうか?


もっとも、佐伯さえ佐久間の扱いに比べればマシかも知れなかった。


読めない、喰えない――兎に角、どう対応すれば良いのだ!


杏奈は佐久間に興味がある風だった。確かにそれだけ実績があるのだから当然の事だろう。


私も本来ならば杏奈を見習うべきだと思う。