私と彼と――恋愛小説。

私の慌てる声に編集長は椅子から立ち上がり、部屋の中からは小さく歓声があがった。


無理もない、編集長の提案から殆ど全員がサイトに目を通し…ハマったのだ。


「さて…問題はやっぱりアレだな」


一瞬喜んだ編集長は腕組みをして椅子にどすんと腰を落とした。周りを見渡せば他の編集者も頷いている。


「そうですよね…」


編集部での話題は、何故彼女が此れまで姿を現さなかったのか?だった。


谷女史もあれから随分と〈カヲル〉の情報を集めていた。うちよりも大手の出版社からも彼女にオファーは掛かっていた。


けれども噂通りにアポイントへこぎつけて…すっぽかされていた。


『彼女って、余程見た目に自信がないとかですかね?』


『いや、もしかしてお婆ちゃんとか?あり得ますよね…』


もし彼女を説得し思い通りに連載を約束させても、ビジュアル次第で扱い方が変わる。


発信者の“顔”が見える誌面構成が、新雑誌noxのウリでも在った。