私と彼と――恋愛小説。

佐久間の感触、佐久間の匂い、佐久間の声――


腰から砕けそうになる。耳もとでその声が響く。


「会いたかった…」


「…私も」


背中に回る佐久間の腕が強く私を抱き寄せる。どのくらいそうしていただろうか…佐久間が満足した風に私から離れた。


「悪かったね、随分待たせちゃった」


「そうね…もう少しで忘れそうだったわよ。それで?気が済んだ?」


「そうだね、充分にすっきりしたよ」


「そんな感じね…荷物はどうしたの?」


落ち着いてその姿を眺めると、笑いが込み上げる。真冬の季節に半袖のシャツとジーンズ。


短いけれどボサボサの髪…荷物は小さなショルダーバッグ一つだった。


「全部捨ててきた」


憎らしい程に自然な表情で私を見ている。胸に下がった細いチェーンの先にリングが二つ、聞こえる筈がないのにチリっと重なる音が響いた気がした。