私と彼と――恋愛小説。

「まあね…あれは、願掛けみたいなものだったから」


ジュンさんは笑いながら黒いネクタイを外しポケットへ押し込んだ。


「それじゃ――またね。加奈子ちゃん」


「ええ、またねジュンさん」


ジュンさんの背中は真っ直ぐだったけれど、張り詰めていた空気が和らいだみたいに軽やかに見えた。


「さてと。帰ろうか僕らも…」


「そうね。今日は私も一人で帰るわ、またね涼くん」


佐久間も笑みを浮かべて頷いた。今日は一人で過ごしたいのだろう。


タクシーに乗り込み行く先を告げる。ジュンさんは、佐久間は今何を考えているのだろう。


きっと私には分からない。それは、それで構わない。


立ち入るべきではない事は沢山在るのだ。