私と彼と――恋愛小説。

寒空の冷えた空気など関係が無いと云った風に、長身の男が静かに佇んでいる。


ピンと伸びた背筋と夜空に溶けそうな漆黒のスーツ。


佐久間は、迷いもなく彼に近付いて一回り大きな男の肩に手を置いた。


「さあ行こうか――“義兄さん”」


試写室へ向かう間、二人は何も話さない。私とエリナさんは、静かに彼等の後ろを歩いた


「主役の登場だな…」


新庄監督の言葉に、男は深々と頭を下げた。それは、まるで厳かな儀式の様にも見える。


試写室の明かりが落ちスクリーンに背中から光の筋が伸びる。


OL姿が初々しいエリナさんが映し出される。綺麗だなと思う、実物のエリナさんとも違う輝きを放っていた。


淡々とストーリーは進み、エリナさんと冬馬がスクリーンいっぱいに映し出される。


演技なのだと分かっていても、全裸で絡み合う二人の間に濃密な感情が流れている様に感じた。


そっと新庄監督とエリナさんに視線を向ける。真剣な表情でスクリーンを見つめる姿に感動すら覚えた。