私と彼と――恋愛小説。


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エリナさんの携帯電話から映画に使われているメロディーが小さく聞こえる。


エリナさんは静かな表情で佐久間を見つめる。佐久間は一瞬だけ目を瞑り頷いた。


「新庄、終わったって」


「そう…行こうか」


ゆっくりと立ちあがりながら、右手で器用にメールを入れている。私もエリナさんもその光景を見つめた。


「あー寒いよなぁ。加奈子ちゃん大丈夫?」


わざと大きな明るい声で、私を後ろから抱きしめる。


「ちょっと!そこのオトコ。そこは主演女優を気遣うトコでしょ?」


「あーエリナも大丈夫?寒くない?」


私の肩を抱き寄せながら、佐久間がエリナさんをからかった。


「加奈子さん…止めときなさい。こんな男」


「検討しておきますね…」


馬鹿げた会話が続いたのも、ビルの前に辿り着く短い時間だけの事だった。


佐久間は一度立ち止まり、直ぐに真っ直ぐ歩き出す。