私と彼と――恋愛小説。

佐久間はバッグの中にあるノートパソコンに手を伸ばしながら静かに話す。


『四年前だった――彼女の本心が聞けたのは…僕らの父さんは売れない作家だった。貧乏で周りに迷惑ばかり掛けてた。その癖、気難しくしくて気分屋で、僕はそんな父さんが――大嫌いだった』


佐久間は、躊躇いながらテーブルに置いたノートパソコンの電源ボタンを押した。


『でもね…姉さんは違った。狡いよね…死んじゃう寸前にだもん…』


私に返す言葉などある筈はない。今にも泣き出しそうな佐久間の顔を見つめるのが精一杯だった。


『noxの第六話…読んでくれれば…全部わかる』


『本当に…良いの?』


『うん、もう加奈子ちゃんに隠す事なんて一つも無い』


佐久間がデスクトップの書類を選び、一呼吸してクリックする。画面上に開かれた書類。六話の表紙が現れる。


真ん中にタイトルがシンプルに置かれていた。


私は佐久間に渡されたマウスでページを捲る…


そこに在るのは、切々と綴られていたこれ迄の恋愛物語では




無かった――