私と彼と――恋愛小説。

「監督、本気で気に入ってたんだ。カヲルの事…映画に出したいって何度か言われたけどね」


佐久間は私に向けて笑いを堪える。その場の冗談だと忘れていたし、佐久間も私に言わなかった事だ。


「酷いでしょ?相手が女優ならまだしもね…目の前でカヲルの事褒めちぎるんだもの」


「それで?カヲルに嫉妬したエリナは――監督と結婚する気になった…」


「うーん――惜しくなったのかもね。あの人に逃げられる事が」


二人が愉快そうに私を見た。エリナさんと私を比べるなんて想像もつかない。


「えっと…ですね。エリナさん?もしかして――監督に嵌められた…とかじゃないですか?」


思った通りの事を口にする。


「えっ…?もしかして、そうなのかな?…後で問い詰めるわ、あの男」


「やめなってば。良いじゃない、幸せなんだろ?」


「そうだけど…あれが無ければさ、冬馬って選択肢もあったのよね」


「また、そう云う事を」


「ふぅ…そうね。止めておくわ、これ以上あの人のバツの数増やすのもね」