私と彼と――恋愛小説。

「お待たせしました。早いじゃないですか、二人して遅刻魔の癖に」


監督がメニューを眺めている間に、佐久間が姿を現す。


「馬鹿野郎、遅いんだよ。俺様を待たせるなんざ十年早いわ」


まるで兄弟の様なやり取りだった。何だか微笑ましくもある。エリナも愉快そうにその光景を見ていた。


「面倒だからコースで良いな。高い泡も頼もう」


監督は一人で呟いて部屋を出てしまう。どうやら直接オーダーを告げる様だった。


「あれでも照れてるのよ、あの人」


可笑しそうに笑うエリナは幸せそうに見える。


「しかしまあ突然だねぇ、エリナちゃん」


「まあ…そんな事もあるわ。相手が相手だしね、理屈も何もあったものじゃないから」


「俺の悪口じゃないだろうな?」


「あら、褒めてたのよ。貴方の事」


「まあ、良いけどな。それでだ、涼から聞いたと思うがそう云う事だ」


確かに聞いてはいるけれど、何故それで私が呼ばれるのかがわからない。キャストとの顔あわせは予定の範疇だけれど、今の状況はそれと関係ない気がした。


「あの…どうして私に報告されるのでしょうか?」


監督とエリナが顔を見合わせて笑う。


「それはねぇ貴女の小説のおかげだからよ」