私と彼と――恋愛小説。

「そうだった。まあそれでさ二人がカヲルに会いたいって」


ほぼ創刊号は出来上がったとは云え、最終のチェックやら確認の作業は残っている。


次号の進行も合わせて進めなければいけない。余裕はありそうで無いのが通常だ。


兎に角仕事を切り上げて、佐久間の事務所へ向かった。


「急なんだからねぇ。しかも、加奈子ちゃんまた寝不足でしょ…もう」


佐久間は別の場所から向かうと聞かされ、ジュンさんが用意してくれていたタクシーに乗り込んだ。


隠れ家の様な個室のイタリアレストランは芸能人御用達で有名な店だった。入口で名前を告げると一番奥へと通される。


まだ誰も来ていないテーブルを眺め、入口に一番近い席に座る。落ち着かないシチュエーションだ。


佐久間が居ない時に上手くカヲルで乗り切る自信もないのだ。しかも相手はエリナで、マスコミ嫌いで有名なのに…


佐久間の言う通り、エリナの機嫌が良い事を期待する外ない。


そわそわと待つ時間は長く、期待に背いて現れたのは監督とエリナだった。


「綺麗…」あろう事か…私の口を突いたのはそんな言葉だった。


「だろう?紹介するよ、原作のカヲルくんだ」


「初めまして、エリナです。嬉しいわ貴女に会えて」


ほんの一瞬で値踏みをされた気がしたけれど、これだけ格が違えば嫌な気にもならない。


「こちらこそ、嬉しいです」


現実のエリナは本当に美しかった。オンナの私でも見つめていたい程に綺麗なのだ。


「あー話は、オーダー済ませてからにしよう。涼の奴もすぐに来るだろ」