「ふぅ……」


小さな画面に流れる文字を目で追いながら、自然にため息が漏れた。


文庫の小説の様に完成されたモノでは無い。


けれども、三十路オンナの揺れる心情を書かせれば、今の彼女以上に共感を呼び覚ます“作家”は居ないと思えてしまう。


毎週水曜日、午前零時きっかりにその小説は更新される。


その時間を待ち侘びて数万人の読者が、一斉に彼女の小説にアクセスする――


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「携帯小説って…アレですか?本気じゃないですよね…編集長?」


春に予定されている新雑誌の編集会議。私は、副編集長として抜擢されたばかりだった。


「そうよ、携帯の小説。まあ、良いから読んでみなってば…馬鹿にしたもんじゃないからさ」


「編集長がそう言うなら…読みますけどね」


編集長、谷女史の言葉に戸惑いながらそう答えた。


出版社には様々な編集部があり、希望の部署で働ける事などそうある事では無い。


彼女は文学畑出身でこれまでも随分名のある作家を手掛けてきた。